労務管理に際し使用者が問題ないと考えて行っていることに対し、場合により思いもよらぬ展開となることがあります。そのいくつかを記載します。
残業を行う場合、所属長に事前に書類による承認手続きを得て残業を行うことを就業規則で定めている会社は多々あります。従業員が残業の申請書類を提出せずに残業を行っている場合、会社の規則に従っていないので残業代を払う必要がないと考える使用者(所属長を含む)がいますが、それが通用するのは社内だけです。残業の事前承認の決まりがあったとしても、承認手続きを得ずに実際に残業を行っていれば、その残業に対しての時間外労働の賃金を支払わずにいると賃金未払いとなるリスクがあります。
(参考裁判例)
就業規則に事前に所属長の承認を得た場合の就業のみ時間外勤務として認める規定が
存在したが、承認を得ない時間外労働に対し時間外労働請求が認められる
(昭和観光事件・大阪地裁・平18.10.6)。
次に残業代などの割増賃金を数十時間分、定額払いとして支給する方法があるが、これは定額残業代、固定残業代などと呼ばれており、定額払いとして支給する方法は、一定要件により裁判や労働基準監督署などの行政でも認められている方法です。割増賃金の定額払いを手当で支給する場合がありますが、例えば役職者(労働基準法の管理監督者に非該当。以下同様)に対して支払う役職手当に残業代を含んだ手当として使用者は支給しても、割増賃金定額払いの一定要件に合わない場合は、残業に対し全額未払いとなります。さらにその役職手当は、役職者としての責任などの職務内容に対しての手当となり、役職手当を含んで計算した割増賃金単価となるため、1時間当たりの残業単価は高くなります。
(参考裁判例)
賃金規程で月30時間分の時間外労働割増賃金として支給すると明記されていた営業手当が定額残業代として認められなかったため、営業手当を含んだ割増賃金単価で計算した未払い割増賃金の請求が認められる(アクティリンク事件・東京地裁・平24.8.28)。
労務管理に関し思いもよらぬ展開にならないためには、現在の労務管理についての点検が予防策です。
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